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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)11458号 判決 1967年1月21日

原告 トミイエ・ケンネス・マービン

右訴訟代理人 小林宏也

被告 安西暉之

右訴訟代理人 柿沼映二

同 上治清

主文

被告は原告に対し金三〇九万七九八九円及びこれに対する昭和四一年一月一四日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行できる。

事実

原告は請求原因として、

一、訴外株式会社偕広社は、昭和三八年四月二日訴外大東京信用組合と当座貸越、手形割引、手形貸付、証書貸付、保証等取引に関する契約を締結した。

二、被告安西暉之、訴外武藤嘉文は共同して訴外株式会社偕広社の委託をうけ、昭和三八年四月二日同社が訴外大東京信用組合に対して負担する前項記載の契約による債務が生じた場合に、その債務を担保するため同組合と極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の限度内に於て連帯保証人として主債務者と連帯して支払う旨の根保証契約を締結した。

三、原告トミイエ・ケンネス・マービンは、訴外株式会社偕広社の委託をうけ、昭和三八年七月二四日同社が訴外大東京信用組合に対して負担する第一項記載の契約により債務が生じた場合にその債務を担保するため同組合と債権元本極度額金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の物上保証人として原告所有の別紙物件目録記載の不動産について根抵当権を設定し、同年七月二八日根抵当権設定登記を完了した。

四、昭和四〇年六月一一日訴外株式会社偕広社が訴外大東京信用組合に対して有する債務は金九、二九三、九六七円となり原告は物上保証人として大東京信用組合から、保証債務履行の請求をうけ、同日訴外組合に対して有する預金債権と相殺をせられた結果、原告は、これを全部弁済せしめられた次第である。

五、昭和四〇年八月二〇日原告は、主債務者偕広社が大東京信用組合に対して有する債務全額につき原告が全額弁済することにより共同の免責を得たのであるが、物上保証人たる原告と連帯保証人訴外武藤嘉文及び同じく連帯保証人である被告については、原告と訴外武藤嘉文及び被告間に負担部分の定めがなかったのであるから、各自三分の一の割合による負担部分があるものというべく、被告に対してその負担部分である三分の一の金額三、〇九七、九八九円也を請求したが、被告はその支払をなさない。

六、原告、被告および武藤嘉文間に負担部分の定めはなかった、原告は大東京信用組合から請求を受けたので武藤嘉文に対しそのその旨通知し同人から求償をえた。原告としては提供した抵当物件を競売されては困るので被告に対しても通知をなし、大東京に対し弁済しているものであると述べ、

被告の債務免除並びに表見代理に関する抗弁事実につき否認し、かりに被告のいう債務免除ありとしてもそれがなされたという昭和三八年一二月一〇日以後に生じた債務については免除の効力が生じるにすぎないものでそれより前に生じた債務についてはその効力あるものではないと述べた。<省略>。

被告は、答弁として、請求原因事実中、株式会社偕広社の委託をうけ原告が大東京信用組合に対して物上保証人として所有不動産につき根抵当権を設定したこと、原告が右信用組合に対する債務の内金九二九万三九六七円につき保証債務の請求をうけ、右信用組合に対する預金債権と相殺させられ同額につき共同の免責を得た事実は不知と述べ、原告、被告、武藤間に負担部分の定めがなかった事実は認めるも、原告は被告に対し民法第四六三条第一項、第四四三条第一項の通知をしないで免責を得たものであると述べたほか、

昭和三八年一二月一〇日右信用組合田村町支店と被告及び訴外伊藤一男の間において右信用組合は被告の本件連帯保証債務を免除し、伊藤一男が被告に代って連帯保証人となった。

かりに右の主張が理由がなく右信用組合が被告の債務免除承認をしたものではないとしても、右の免除承認行為は右信用組合田村町支店副長松本勉によりなされたもので、松本勉は同支店長、次長に差支えあるときこれに代る代理権を有し同人の右承認が同組合の内部的制限をこえ、権限踰越であっても善意の第三者である被告としては同人にその権限ありと信ずべき正当事由あるものであって民法第一一〇条により同組合は被告に対して右の債務免除をなしたものといわなければならない。以上の理由により、被告は原告の本訴請求に応ずるわけにはいかないと述べた。<以下省略>。

理由

大東京信用組合が株式会社偕広社との間に原告主張のような当座貸越等取引契約を締結したこと、株式会社偕広社の委託をうけた被告及び武藤嘉文が右信用組合に対して原告主張のように元本極度額一〇〇〇万円の限度で主債務者と連帯し保証契約を締結したことは被告の明らかに争わないところである。

被告は、昭和三八年一二月一〇日右信用組合(田村町支店)と被告及び伊藤一男との間で被告の債務を免除し、伊藤一男が代って連帯保証人となった旨主張する。そして証人伊藤一男の証言被告本人尋問の結果によれば、これにそう事実があったかのようであるけれども、証人山口実、松本勉の各証言によれば被告の本件連帯保証を変更し、訴外伊藤一男をその連帯保証人とすることを大東京信用組合(田村町支店)に申入れたことはあったこと、その際右三八年一二月一〇日付保証人変更願なる書面(乙第一号証)が右組合宛に差出され(但しその成立について原告は不知を以て答えている)たこと、同書面の末尾には右三八年一二月一〇日なる日付を付して右承認しましたなる旨の記載と「大東京信用組合田村町支店」なるゴム印と、印判を押捺のあること、しかし右の末尾の記載、押印等は右組合田村町支店の職員である松本勉においてそのように申出がなされたこと即ち、連帯保証人変更の件につき話を進めてほしいということを承諾したもので、その変更自体を承認したものではないのであって、そもそも連帯保証債務、免除の権限は理事の権限に属し、支店長でさえその権限を有しなかったことが認められる。してみると、右乙第一号証なる文書の記載はまぎらわしいとしても、これによって、被告主張のように、被告が右連帯保証を免除され、伊藤一男に変更されたとの事実は認められない。被告は民法一一〇条の表見代理をいうけれども、松本勉は右信用組合田村町支店の単なる被用者たる職員にすぎないもので同組合を代理すべき権限を有したとの証拠があるものとはいえない。同人の被用者としての職務分担につき言及するまでもなくまた同人が被用者としての右組合の営業上の事務を取扱ったというだけで同人に右表見代理の基本代理権ありといえないことは明らかであるから爾余の検討をするまでもなく右主張は到底採用できないところである。

次に、原告がその主張のように株式会社偕広社の委託をうけ物上保証人として、目録物件につき根抵当権を設定した事実、偕広社の右信用組合に対する債務の内金九二九万三九六七円につき原告はその主張のように保証債務の請求をうけ、同組合に対する預金債権と相殺させられ、右債務全部につき共同の免責をえたことは、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九、第七号証により認められる。

被告は、原告は被告に対し民法第四六三条第一項、第四四三条第一項所定の通知をしないで右免責をえた旨主張するけれども、原告は武藤嘉文に対して右組合から本件連帯保証債務につき請求をうけたことを通知し、同人から爾後その求償をうけたという原告の主張事実に照らし弁論の全趣旨によれば、原告は被告に対し、右法定の通知をなしたうえで右免責をえたものと認められるのみならず他の債務者が債権者たる右信用組合に対抗しうべき事実を有したこと、他の債務者である被告が善意で右信用組合に弁済し免責をえた旨の主張立証はない。そして原告と被告並びに武藤との間において負担部分の定めがなかったことは当事者間に争がないから、結局その三分の一の額及びこれに対する付帯損害の支払を求める原告の本訴請求は正当として認容し、主文の通り判決する。

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